俳句雑感(7)金子兜太の「炎天」の俳句(改訂版)
2019年8月、「炎天下」の甲子園における高校野球全国大会をNHK・TVで観戦しながら、「炎天」の俳句を作ろうとして、ふと金子兜太の有名な俳句のことを思い浮かべました。
この俳句は5・8・5の破調です。
一般的に、俳句の「中七」の字余りは良しとされません。
しかし、この俳句を、例えば、「水脈の果炎天の墓碑置きて去り」とか、「炎天の墓碑置き去りし水脈の果」、「戦友の墓碑炎天の水脈の果」などと、5・7・5の定型に収めると破調のインパクトが無くなり、作者の痛恨の思いを表現しきれない気がします。
このように、俳句の内容によっては破調にする方が効果がありますが、安易に破調にすると散文の断片に過ぎない片言になります。
破調にするにはそれなりの必然性がなければなりません。
一般的な作句では定型を守るのが無難で良いと思います。
この俳句は、季語が無く破調の最たるものであるばかりでなく、現在はマラソンが盛んなのでそのマラソンの印象が強く、被爆者が黒焦げになって無残な即死をしたり、悶え死んだり、逃げ惑ったりした悲惨な状況を想起させる名句として納得するには抵抗を感じます。
この俳句は、「軽み」を特徴とする俳句の分際で被爆や被災など悲惨な状況・重い題材そのものを詠むには無理があること・俳句の限界の証になるでしょう。
写真は、2024年2月26日に開催された大阪マラソンのスタートとゴールのNHK-TV画面の一部分です。
当日は冴返る冬日の春雨のマラソンになりましたが、平林清澄(國學院大學3年)が初マラソンで初優勝の快挙を達成しました。
金子兜太が長崎の被爆を詠んだ前衛的現代俳句は、歳時記「炎天」の一茶の俳句にある言葉を借りて言えば、伝統的な俳句の概念からは「とっぱづれ」しています。
復興なった被爆地でマラソンが出来る平和の有難さを現代俳句として詠むべく、次のように本歌取りをしました。
マラソンや被爆忘るな春の雨
(薫風士)
この俳句の「春の雨」から「被爆の黒い雨」を想起してくれる世代は減るばかりですが、「俳句HAIKU」の読者の皆さんは、世代を問わず、この拙句に共感して頂けるでしょうか?
8月19日は「俳句の日」です。
俳句愛好家が増え、俳句を通じて世界の平和が実現することを切望しています。
ここをクリック(タップ)し、「夏の俳句特集(改定版)」 をご覧下さい。
青色文字の「俳句」や「HAIKU」をタップすると、それぞれ最新の「俳句(和文)」や「英語俳句」の記事をご覧頂けます。
2024.9.22 更新
投稿: | 2024年9月22日 (日) 15時27分
俳句の比喩と掛詞《白鳥》
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/haiku/
をご覧下さい。 (薫風士)
投稿: | 2023年2月26日 (日) 21時32分
「夏の俳句特集 (薫風士のブログ)」
投稿: | 2022年5月 4日 (水) 07時44分
(コロナ禍の不急の五輪開催の是非)
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2021/04/post-44d5.html
をご一読下さい。
(薫風士)
投稿: | 2021年5月 5日 (水) 12時29分
9月19日は正岡子規の忌日「獺祭忌」です。
「芭蕉・子規・虚子の俳句、まんぽ写真・俳句などを楽しもう!(WEB特集)」
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2020/09/web-1bc9.html
をご一読下さい。
(薫風士)
投稿: | 2020年10月 1日 (木) 10時20分
俳句は始めたら面白さに嵌りますよ!
「プレバト俳句 夏井先生の添削を添削する」
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2020/09/post-f4d8.html
をご覧下さい。
(薫風士)
投稿: | 2020年9月13日 (日) 08時06分
面白くて考えさせるコロナ川柳
「コロナ禍に外堀埋める法改正」
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2020/05/post-84d9.html
をご覧下さい。
(薫風士)
投稿: | 2020年7月31日 (金) 09時08分
最近、昔の出来事と現代の出来事を交錯させながら進行する分かりにくいドラマがある。
上記の金子兜太の俳句もそのようなドラマと同じようなパターンであり、
『水脈の果』と『去る』」や「湾曲し」と「マラソン」など、
過去と現在が一つの俳句に同時に詠みこまれている。
しかし、この手法は真似るべきでないでしょう。
投稿: 木下 聰 | 2019年10月31日 (木) 08時58分