俳句談義(10):高浜虚子の「雛」の句を鑑賞する。

    

(P.S.2022.7.16)

言葉の力《俳句は癒し》や「俳句《涼し》死の話をご覧下さい。

        

(2015.3.19) 

俳句談義(9)で「雛祭り」の俳句を集めたが、その中の高浜虚子の俳句について考える。

   

もたれ合ひて倒れずにある雛かな

   

掲句について、稲畑汀子さんの「虚子百句」には次の記述がある。

明治30年、虚子24歳の作。・・・(省略)・・・虚子の気に入りの俳句であった。

子規の唱える絵画的写生の影響の見られる俳句であるが、『もたれあひて』という上五の字余りで何とも言えぬやわらかみと情緒を醸し出している。・・・(省略)・・・そこはかとない哀れの中に漂う雅に何とも言えぬ風情がある。

・・・(省略)・・・

同じ明治30年1月、碧梧桐は天然痘にかかり入院を余儀なくされる。幸い病状は軽く、一か月で退院するが、しかしその間に碧梧桐の婚約者であった下宿先高田屋の娘いとの心が虚子に傾いていたのである。

・・・(省略)・・・

虚子は6月にいとと結婚する。若い頃から能楽の素養を積んでいた虚子の心中は恐らく『恋の重荷』に押し潰されんばかりであったろう。いととの愛にかろうじて支えられていたのではなかろうか。」

   

雛よりも御仏よりも可愛らし

   

掲句について、坊城俊樹さんの「虚子の100句を読む」には次の記載がある(抜粋)。

「昭和四年三月五日。三女宵子の長女恭子生後八十日にして夭折。其初七日。

痛切な思いがにじみ出ている。ちょうど雛祭りのころであるから、その調度を前にしての哀しみは想像にあまりある。

・・・(省略)・・・

それはともかくとして、虚子のすごさは掲句のような哀憐の句の翌週には、このような客観写生の到達点たる句を作ること。その感情の量の変幻自在のすごさ。
 『ろく』の時の冷徹な虚子、掲句の情感あふれる虚子、この句の客観写生の虚子、はたして同一人物の感情なのか、まことに不可解なのである。」

  

虚子が「雛より小さき嫁を貰ひけり」を詠んだ背景はわからないが、深読みすれば、生まれれる前の誰かを「許嫁」として早々と決めたことを詠んだ俳句かも知れない。

  

上記のように、虚子の俳句にかぎらず、深みがある俳句ほどその句が詠まれた「場」を知らなければ正しい解釈をすることができない。

それが俳句の限界であるが、誤解にしても、自分なりにあれこれ想像して深読みの解釈できるのも俳句の面白さである

     

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