芭蕉300句の英訳チャレンジ (31-40)

   

芭蕉が意図した句意を知らない限り、適切な翻訳は出来ませんが、英語は論理的な言葉ですから複数の試訳をしてみます。

万一誤訳があれば、ご指摘の上、俳句の背景を教えて頂けると幸甚です。

  

(31)  有難や雪をかほらす南谷 

  (arigata-ya yuki-o-kaorasu minami-dani)

  

(A)

how grateful!

the scent of snow:

Minamidani

 

(B)

grateful!

the snow having a scent of

Minamidani

  

  (注)

俳句の「切字」や「切れ」を翻訳するには、句意を考慮して「_」や「:」「!」などを使うのが良いと思います。

この俳句や次の俳句の助詞「や」は詠嘆的切れ字なので感嘆符「!」で表現しています。

「:」は「すなわち」の意味を表しています。

A)と(B)のどちらの翻訳が良いと思いますか? 

貴方ならどう翻訳しますか?

   

芭蕉がこの句を作った背景の解説は、次の記事にあります。

芭蕉が見た風景 羽黒山」、「羽黒観光スポット 南谷

       

  

(32)  涼しさやほの三か月の羽黒山 

 (suzushisa-ya hono-mikazuki-no haguroyama)

 

(A)

what a coolness!

the dim crescent moon

above Mt. Haguro

  

(B)

how cool!

above Mt. Haguro,

the dim crescent moon

   

   

(33)  ほととぎす大竹藪をもる月夜 

(hototogisu ōtakeyabu-o moru tsukiyo)

  

(A)

a cuckoo_

through the large bamboo-grove,

the moon light

    

(B)

voices of a cuckoo,

enriching the bamboo grove_

moonlit night

  

(C)

cuckoos,

the large bamboo grove_

the moonlight protecting them

   

一般に、三段切れの俳句はダメ句とされますが、この俳句は読み方次第で三段切れになります。

芭蕉は敢えて三段切れにし、「もる」に当てはめる三通りの漢字、(A)「洩る」、(B)「盛る」、(C)「守る」の選択を読者に委ねることによって、俳句の言葉遊びをしたのではないでしょうか? 

それとも、含蓄に富む俳句を作ろうとしたのでしょうか? 

貴方の解釈による適訳は(A)~(C)の何れでしょうか?

    

  

(34)  涼しさを我宿にしてねまる也

 (suzushisa-o waga-yado-ni-shite nemaru-nari)

   

(A)

making the cool

my dwelling,

I relax myself

     

(B) 

the cool

relaxes me

as if in my dwelling

    

()

(A) は文字通りの英訳です。(B) は意訳です。

奥の細道 尾花沢」の記事によると、この俳句は野宿を詠んだものではなく、山形県尾花沢市鈴木清風宅宿泊の持て成しを詠んだ挨拶句とのことです。

 

芭蕉は、「お持て成しは何もできませんが・・・」などと清風が謙遜して言ったことを受けて、この俳句を詠んだのででしょうか? 

 

     

(35)  粽結ふかた手にはさむ額髪

 (chimaki-yuu kata-te-ni hasamu hitai-gami)

  

wrapping a chimaki,

another hand backing

the hair falling over the brow

 

()

「粽」は、対応する英語がないので、そのまま“chimaki”とします。

日本固有の単語は無理に英訳せず、注記することにより俳句の簡潔さを優先すれば良いと思っています。

    

      

(36)  道のべの槿は馬にくはれけり 

 (michinobe-no mukuge-wa uma-ni kuware-keri)

  

(A)

a rose of Sharon on the wayside_

eaten

by my riding horse

  

(B)

Alas!

roses of Sharon on the wayside_

eaten by horses

    

  (注)

英語の名詞は単数・複数の何れにすべきか、実態が不明だと一方的に決めつけることが出来ません。

「馬」の実態が不明なので、

A)は「自分が乗っている馬」と解釈し、(B)は「馬に食われて残念」という一般的な解釈で翻訳し、

「けり」の詠嘆は「alas!」で表現しました。

「くはれけり」は「was eaten」とすると句意が明瞭になりますが、散文的にならないように「be動詞」を省略しました。

     

      

(37)  野を横に馬牽むけよほととぎす

 (no-o yoko-ni uma hiki-mukeyo hototogisu)

  

(A)

Lead the horse sideways

across the field_

a cuckoo

  

(B)

Cuckoo!

Lead my horse sideways

across the field

  

 (注)

(A) は「ほととぎすが鳴いているぞ」と「馬子に呼び掛けている」と解釈して英訳したものです。

(B) は「鳴いている時鳥に呼び掛けている」と解釈して英訳しています。

「牽きむけよ」という表現からすると(A)の方が妥当ですが、俳諧味を狙った比喩的表現だとすれば(B)かも知れません。

  

芭蕉は何れの解釈も可としてこの句を作ったのではないでしょうか?

HAIKUは、散文のように行の初めを大文字にしないのが普通ですが、この俳句は命令文を含んでいるので大文字にしています。

      

      

(38)  秣負ふ人を枝折の夏野哉 

 (magusa-ou-hito-o shiori-no natsuno-kana)

  

(A)

a man with fodder on his back:

the guidepost of

the summer field

  

(B)

the summer field_

the guidepost is

a man with fodder on his back

        

  

(39)  闇の夜や巣をまどはしてなく衛

 (yaminoyo-ya su-o-madowashite naku-chidori)

   

(A)

dark night_

disguising the nest,

the crying plover

  

(B)

the dark night_

for disguising the nest,

cries a plover

    

(注)

「衛」は「千鳥」のことです。このような漢字の違いによるニュアンスの違い・原句の面白さは英語に訳出できませんので注記するしか仕方がありませんが、俳句の面白さ・真価は日本語を理解しないかぎり理解出来ないので、翻訳には限界があります。

    

     

(40)  いかめしき音や霰の檜木笠

 (ikameshiki oto-ya arare-no hinoki-gasa)

   

(A)

stern sound_

hails

beating my cypress hat

  

(B)

stern sounds_

hails

beating their cypress hats

  

A)は芭蕉が自分のことを句にしたと解釈し、

B)は芭蕉が他の人のことを詠んだものと解釈して翻訳しています。

  

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