「俳句・HAIKU言語の壁」というタイトルのブログを書いたが、芭蕉の俳句「古池や」にも様々な英訳があることから、著名な俳句の英訳を自分なりにしてもよいだろうと考え、俳句翻訳における言語の壁を破るチャレンジをしたくなった。今回はその第1回目である。
まず、HIAの名句選・鷹羽狩行選の例を取り上げさせていただく。
・啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
水原秋櫻子の代表句の一つといわれるこの句について、山本健吉は「定本 現代俳句」において次のように解説している:
この句の感触には、いつまでも色あせない瑞々しさがある。このような句で「牧」と言うと、日本流の牧場よりも西洋流のmeadowといった印象を受けるから不思議である。高爽な清澄な晩秋の空気さながらに美しい風景句として現出する。「落葉をいそぐ」というのも美しい言葉だ。葉を落とした木肌に、啄木鳥が叩いている姿があらわなのである。
この山本健吉の解釈を考慮すると、HIAに掲載されている英訳:
woodpecker——
leaves quickly fall
in the meadow
は曖昧模糊としてしっくりこない。例えば、牧場の木にたまたま啄木鳥が見えたのだとすると、次のように英訳したらどうだろうか?
a woodpecker -
the meadow tree shedding
the leaves in haste
あるいは、啄木鳥の音を聞いて牧場の木を見たのだとすると、次のように英訳してはどうか?
the sound of a woodpecker -
the meadow tree shedding
the leaves in haste
次に、山口誓子の俳句を試訳する。
・夏草に汽罐車の車輪来て停る
この句について、山本健吉は「定本 現代俳句」において次のように解説している:
山口誓子の近代俳句の一例である。おそらく大阪駅の引込線に汽缶車が来て止まったのだろう。線路の傍には夏草が生えていて、それに車輪が触れんばかりなったのだろう。汽缶車が止まったと言わず、「汽缶車の車輪」が来て止まったと言ったことに、作者の即物的実感が生々しく出ている。これも動詞終止形止めの典型的な表現である。
この山本健吉の解釈を考慮すると、HIAに掲載されている英訳:
summer grasses——
the wheels of the locomotive
come to a stop
はいまひとつぴんと来ない。「come to a stop」は単に「止まる」という意味だから、原句の特徴を十分訳出していない。次のように英訳してはどうか?
above the summer grasses
wheels of the locomotive have appeared
and stopped
むしろ、次のように簡潔にしてよりハイクらしくした方がよいかもしれない。
the summer grasses_
wheels of the locomotive have appeared
and stopped
因みに、後藤夜半の俳句「滝の上に水現れて落ちにけり」の英訳:
above the waterfall
water revealed
becomes waterfall
が同じ名句選に掲載されているが、この原句は上記の山口誓子の句と描写の仕方が似ている。
「落ちにけり」の「に」は助動詞「ぬ」(動作・作用が自然と推移し、完了することを表す)の連用形であり、助動詞「けり」は広辞苑の解説⑤「時を超越してある事実が存在することを述べる」に該当するのだろう。
そこで、原句のニュアンス(水の動きを生き生きと表現している)を訳出出するには次のように簡明に翻訳した方がよいのではないか?
above the waterfall
water appears and
falls
または、
the water appears
above the waterfall
and falls
今後も随時俳句の英訳にチャレンジしたいと思っている。このブログをご覧になった方から忌憚ないご意見・コメントを賜りたい。