俳句・HAIKU 《言語の壁にチャレンジ》
国際俳句協会では俳句を国際的に広めて、無形文化世界遺産に登録されるようにしようと努力している。
しかし、俳句には和食にない言葉の障壁がある。
日本語の俳句は読者の解釈に委ねる余地があり、俳句を英語に翻訳する場合、日本語の原句の詩的要素を残して英訳することは至難の業である。
英語は本来論理的に明瞭な言葉であり、英訳されたHAIKUはその解釈の範囲に必然的に限定されてしまう。
俳句は詩であるから文法に拘らず読者の想像に任せて、単純に逐語的な英訳をすればよいというわけにはいかないだろう。
ささやかながらこのブログでも外国人に俳句の面白さを理解して貰うように働きかけたい。
芭蕉の有名な俳句「古池や蛙飛び込む水の音」について、長谷川櫂さんは「俳句的生活」(中公新書)で次のように解説している:
この句は「どこからともなく聞こえて来る蛙が飛び込む水の音を聞いているうちに心の中に古池の面影が浮かび上がった」といっているのである。ここで切字の「や」は現実の世界で起きている「蛙飛び込む水の音」とは切り離された心の中に現実ならざる古池を浮かび上がらせる働きをしている。この心の中の古池こそが閑寂境にほかならない。
この俳句の英訳にどんなものがあるか興味が湧いたので、インターネット検索をして見ると、「Frog Poem」が見つかった。
そこには41の英訳例が掲載されていたが、冒頭の英訳:
The old pond;
A frog jumps in —
The sound of the water.
(Robert Aitken)
など、どの英訳も櫂さんの解釈とは異なり、「古池を見て詠んでいる」という一般的な解釈に基づくものである。
櫂さんの解釈に基づいて試訳をすれば、次のようになるのではなかろうか?
A sound of a frog
jumping into water:
the old pond
日本語のみならず俳句をよく理解している外国の俳人(native speaker)の意見を聞きたいものである。
HIAのホームページにある稲畑汀子・自句選10句の一つに次の例がある。
山の池底なしと聞く未草
この句は、「羊草の咲いている山の池」を見ながら、「底なし池ですよ」と誰かの説明を聞いて詠んだものではないだろうか?
そうだとすれば、掲載された英訳:
Hearing
about a bottomless mountain lake
water lilies
は不適切でないか?
例えば、次のように英訳すれば原句の意味が反映されるが詩的ではない。
the mountain lake
bottomless it is said,
water lilies
逆に、英語のHAIKUを俳句らしく和訳するのも容易ではない。
例えば、HIAのホームページ「愛好10句」のAlan PIZZARELLIのHAIKUの例を挙げる:
twilight
staples rust
in the telephone pole
黄昏やホチキスの錆電柱に
上記の例では、「staples」を「ホチキス」と訳してあるが、「股釘」と和訳すべきでないか?
「ホチキス」は広辞苑には「紙などを綴り合せる具」という説明がある。一般的な「ホチキス」の意味は「stapler」のことである。原句の「staple」の意味は「U字型の止め釘」でないか?
この英語俳句の作者(アラン・ピッツァレリ)は日本語が分からず不適切な翻訳に気付いていないのではないか?
英語のHAIKUでは語順や冠詞など文法にあまり拘らないでよいという考え方もあるようだが、誤解してはならない。
日本語の俳句で切字や助詞の使い方が大切なように、英語の場合は語順や冠詞、前置詞などの扱いが極めて大切である。
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