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2014年7月16日 (水)

俳句・HAIKU 言語の壁を破るチャレンジ(2)

  

今回は中村草田男の代表句の英訳に挑戦する。

    

・万緑の中や吾子の歯生えそむる

    

この句について、山本健吉は「定本 現代俳句」において次のように解説している(抜粋):

……「万緑」を季語として確立した功績は草田男に帰すべきである。……「万緑の中や」---粗々しい力強いデッサンである。そして、単刀直入に「吾子の歯生えそむる」と叙述して、事物の核心に飛び込む。万緑と皓歯(こうし)との対象---いずれも萌え出ずるもの、(さか)んなるもの、創り主の祝福のもとにあるもの、しかも鮮やかな色彩の対比。(みどり)したたる万象の中に、これは仄か(ほの)にも微かな嬰児の口中の一現象がマッチする。生命力の讃歌であり、勝利と歓喜の歌である。

         

また、「季語めぐり ~俳句歳時記~は「万緑」について次のとおり解説している(抜粋):

王安石の詠んだ「万緑叢中紅一点()」など、万緑の語はもともと漢詩に用いられていたが、中村草田男の次の一句()により、俳句の季語として定着した。

(※1 「ばんりょく・そうちゅう・こういってん」と読む。「見渡す限りの緑の中に赤い石榴(ざくろ)の花が一輪咲いている」という意味だが、今では大勢の男性の中に女性が一人という意味で、紅一点の部分が使われる。()上記の句)

・・・・・・万緑という季語からむせかえるような生命のエネルギーがあふれ出ていて、圧倒されるような感じを覚える・・・・・・ また、小さな「吾子の歯」に凝集された命の尊さのようなものを強く感じる・・・。 ・・・・・・生命力の満ちあふれた空間とその中に置かれた小さな命の対比、深い緑とけがれない白の対比が鮮やかです。

         

上記のような解説に照らすと、HIAに掲載されている英訳

along with spring leaves
my child's teeth
are coming in

は物足りず、草田男に申し訳ないと思う。

「万緑」を夏の季語として確立したといわれる句であるから、「spring leaves」は不適切だろう。

    

吾子が男の子とすれば、次のように英訳すれば原句のニュアンスが訳出できるのではないか?

amid the myriads of green leaves_

my child is sprouting

his first tooth

 

または、

 

myriads of green leaves_

the first tooth of my child

has sprouted

 

または、

 

the myriads of green leaves_

the first tooth of my child

has sprouted.

    

ここで原句を文字通りに次の如く英訳することには抵抗を感じる。

日本語は本来情緒的な面があり、切字「や」の効果が効いているので原句の記述の仕方に論理的な抵抗を感じないが、HAIKUとして冒頭にamid付けて原句を直訳すると、論理の飛躍が大きすぎてしっくりしない。

amid the myriads of green leaves_

the first tooth of my child

has sprouted.

       

日本語と俳句をよく理解しているnative speakerの意見・コメントを是非聞きたいものである。

  

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コメント

内林嵩 様

コメント投稿有難うございます。
おっしゃるとおり、日本語を知らない外国の方に俳句を英語で理解して頂くことは困難です。
それでも、俳句に関心のある人々が増えると、俳句を通じて世界平和を希求する俳句愛好家の思いを理解し、シェアしてくれるだろうとの願いを込めて、ブログを書いています。
下記のURLをクリックして薫風士がHIAに投稿した記事(高浜虚子100句の英訳や芭蕉300句の英訳)をご覧頂ければ有難いです。

https://www.haiku-hia.com/about_haiku/takahama_kyoshi/

https://www.haiku-hia.com/about_haiku/basho300_en/archives/300-01_en.html

                     (薫風士)

俳句を英語圏にも普及させようとの努力には敬服します。
しかし、草田男の句でも芭蕉の句でも英訳が果たして作者の気持ちを十分に汲みあげているかは分からない。
薫風士は俳句を理解する外国人のコメントを求めているが、これは無いものねだりかも知れませんね。
俳句の分かる人が句の背景、作者の環境、状況などを十分に英語で解説したうえで、自己の英訳俳句を開示して、それについてネーティブ俳人が英語でコメントし、自己の英訳俳句を作るという手助けがいるのではないでしょうか。しかし、これでは俳句の鑑賞は自分次第で良いという立場の人から批判が出るかも。

2024.2.14 更新

「年越やオミクロン株蔓延りて(医療の在り方)」
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2022/01/post-ed54.html

「大晦日」「大年」の俳句(岸田内閣に望むこと)
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2021/12/post-1143.html

「(冬の俳句特集)不意打ちのオミクロン株冬の雷」
http://knt73.blog.enjoy.jp/blog/2021/12/post-89b4.html

などをご一読下さい。 

(薫風士)

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