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2017年2月24日 (金)

俳句の解析・鑑賞《蕪村の「白梅」と虚子の「去年今年」》

      

しら梅に明る夜ばかりとなりにけり

  

この俳句は画家でもあった与謝蕪村ならではの辞世の句です。

  

(蕪村が大阪生まれであることを最近知りました。)

    

正岡子規は「俳人蕪村」(注1)において蕪村の俳句を高く評価していますが、掲句については言及していません。 

  

萩原朔太郎は「郷愁の詩人 与謝蕪村」(青空文庫)(注2)において詩人ならではできない句評をしています。

  

天明(てんめい)三年、蕪村臨終の直前に(えい)じた句で、彼の最後の絶筆となったものである。白々とした黎明(れいめい)の空気の中で、夢のように漂っている梅の気あいが感じられる。全体に縹渺(ひょうびょう)とした詩境であって、英国の詩人イエーツらが(ねら)ったいわゆる「象徴」の詩境とも、どこか共通のものが感じられる。しかしこうした句は、印象の直截鮮明を尊ぶ蕪村として、従来の句に見られなかった異例である。かつどこかスタイルがちがっており、句の心境にも芭蕉風の静寂な主観が隠見している。けだし晩年の蕪村は、この句によって(ひとつ)の新しい飛躍をしたのである。もしこれが最後の絶筆でなかったならば、更生の蕪村は別趣の風貌(ふうぼう)を帯びたか知れない。おそらく彼は、心境の静寂さにおいて芭蕉に近づき、全体としての芸術を、近代の象徴詩に近く発展させたか知れないのである。そしてこの臆測(おくそく)は、蕪村の俳句や長詩に見られる、その超時代的の珍しい新感覚――それは現代の新しい詩の精神にも共通している――を考え、一方にまた近代の浪漫(ろうまん)詩人や明治の新体詩人やが、後年に至って象徴的傾向の詩風に入った経過を考える時、少しも誇張の妄想でないことを知るであろう。」

    

この俳句を英訳するには省略されている「主体」となるべき言葉を補足して解釈する必要が生じます。

会話や散文で主語はよく省略されますが、この俳句においては、「自分には」とか「自分に残された夜は」など、主語が省略されていると思います。

 

このような分析的解釈をすると、蕪村が自分の気持ちをありのままに素直に詠んだ俳句であることがわかりますが、詩人や俳人の詩的感覚にどのように映るでしょうか? 

     

俳句の英訳に関心のある方のご参考までに、下記します。   

 

The Art of Haiku by Stephen Addissには蕪村の「しら梅」の俳句を次の通り翻訳しています。

 

among white plum blossoms

what remain is the night

about to break into dawn

  

上記の英訳は「白梅に残っているものは明けようとしている夜ばかり」と和訳できます。すなわち、原句の句意を誤解した英訳です。

  

次のように英訳すると、原句の真意を明瞭に伝える俳句らしい翻訳になります。

 

what remain to me_

the night about to break into dawn

among white plum blossoms

   

日本人が俳句を理解できても完全な英語に翻訳することは容易ではありませんが、チュヌの主人はバイリンガル俳句にチャレンジして楽しんでいます。

 

ちなみに、高浜虚子の代表作といわれる俳句「去年今年貫く棒の如きもの」においては主体となるべき語句「俳句に対する虚子の信念」が省略されていると解釈できます。

 

俳句の新解釈・鑑賞 <去年今年貫く棒の如きもの(高浜虚子)>をご参照下さい。 

     

(注1)「俳人蕪村」は下記URL参照。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000305/files/47985_41579.html

   

(注2)「郷愁の詩人 与謝蕪村」は下記URL参照。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/47566_44414.html

  

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